調査対象
調査対象として、日本の3大デベロッパーである「三菱地所」、「三井不動産」、「森ビル」の所有・監理する建物について調査を行いました。本研究における色彩調査では、先進的な色彩データが必要であるため、東京都でより先導性が高いこの3つのデベロッパーを対象としました。調査を行った物件は下記のとおりです。
素材の色彩の使われ方についての調査
調査の目的
都市部の色彩の使われ方を調査し、壁面および床材がコントロールされているかを把握します。
調査方法
調査対象物件で、色見本を使い色彩の調査を行います。素材の色彩のカウント方法は、建物の壁面の一面ごとに色彩を調査しカウントします。平面については、壁面の一面に隣接する面を一面としカウントします。
(調査例)
分析
[色相の比較]
調査対象の壁面(82箇所)および平面(78箇所)の素材を色合いで分けてカウントしたものです。壁面素材では色合いにばらつきがありますが、平面素材では、YR系の色合いのものが壁面素材と比較して全体の58%と過半数が使われているのがわかります。
(色相の使用数 壁面)
(色相の使用数 床面)
[明度の比較]
調査対象の壁面(82箇所)および平面(78箇所)の素材を明度で分けてカウントしたものです。壁面素材では低明度のものから高明度のものまで幅広く使用されているのが分かります。平面素材では、壁面素材の色彩では使用が推奨されない明度3以下の低明度のものは78中2箇所とほとんど使われていません。
(明度の使用数 壁面)
(明度の使用数 床面)
[彩度の比較]
調査対象の壁面(54箇所)および平面(55箇所)の素材を明度で分けてカウントしたものです。壁面素材および平面素材に大きな違いは見られませんでした。壁面の色彩基準で一般的に推奨されない彩度4を超える高彩度のものは、壁面では54中1箇所、平面では55中0箇所とほとんど使われていないことがわかります。
(彩度の使用数 壁面)
(彩度の使用数 床面)
考察
色相では、壁面と平面で比べて、大きな違いが見られました。これは、都市部で平面の色彩の規制がされていないということが影響していると推測できます。都市部では、景観に及ぼす影響など、壁面の色彩に関して力をいれ壁面色彩規制をしてきた一方、平面の色彩に関しては景観に影響が少ないとしてないがしろにしてきた結果ではないかと考えられます。壁面の色相では、暖色系であるYR系も色合い以外にも外壁強調色、アクセントカラーとして、様々な色合いが使われる結果となっています。平面の色相は、ほとんどがN系、YR系が使用され、景観に差し支えなく無難な色として使われていると考えています。
明度は、壁面では様々な明度が使用されています。色合いにそれぞれ、目立つ明度と彩度が異なるため、目立ち方についての考慮を考えると明度にばらつきができてしまうのかもしれません。ただ、目立ち方を考慮せずに考えても明度9以上のものが82中23箇所と多い結果となっています。これは調査物件が商業施設に偏ってしまったことが理由と考えられます。平面では、明度が極端に低いものは使われないという結果となりました。暗い色は、色彩心理的にマイナスな気分させてしいがちという理由から、明るめの素材が選ばれるのではないかと考えられます。
彩度では、大きな違いは見られませんでした。彩度2以上で見てみると壁面素材では54中30箇所、平面素材では55中24箇所が使われている結果となりました。これは壁面よりも平面の彩度が高いと平面の方が目立ってしまうためと考えられます。
色彩コントロールの視点からみると、比較的コントロールされているように感じられます。壁面の色相では幅広い色相が使われていますが、最も景観に影響を及ぼす彩度をみてみると98%が許容範囲である彩度4以下でした。床材では、色相はN系とYR系の無難な色に偏ってはいたものの彩度4以下が100%使われていました。これを踏まえ、建築的に調和しているとは言いきれないが景観的に問題が無いように色彩コントロールされていると推測できます。
イメージ調査
調査の目的
床材の色彩がどの程度影響してくるのかを明確にします。
調査方法
日本カラーデザイン研究所が作成した配色イメージスケールによって評価します。
配色イメージスケールを用いることで、建物のイメージを具体化することができると考えます。また、既存の建物でのイメージ以外に、床材を変更した場合のイメージをデータシートに示します。
(調査事例)
考察
外構が及ぼす色彩は、壁面色彩に限らず床材の色彩も影響を及ぼすとして配色に用いる色彩の一つとして加えるべきだと考えています。データシートは、配色にある床材の色彩を景観的に問題が生じない程度の色彩に変更し配色し直したものです。
丸の内仲通りでみると、既存の配色は「貫禄のある」「風格のある」といったイメージを一般的に受けることができます。床材を明度を高くしたもの、彩度を高くしたものに置き換え比べてみると、高明度のものは「真面目な」イメージ、高彩度のものは「味わい深い」イメージといったように本来の既存の配色イメージと大きくずれ込んでしまいます。床材は面積が広く単一な色彩が使われる傾向に多いため、床材の色彩が変わるだけでその景観のイメージが大きく変わってしまうのではないかと考えます。
重要な要素として「建物の色彩のコントロール」以外に「イメージ通りの建物か」、「建物と景色が調和しているか」ということにもあると考えます。色彩のコントロールをすることは基準を設ければ可能でも、建物のイメージや調和に関してはあくまで人それぞれの感じ方によるため、誘導することは難しいと言えます。