色彩心理
景観における外構色彩について書いていくにあたり、色彩心理についてまとめていきます。
建築物の景観などを視覚表示する際に色を使って様々な効果を付加することができます。
ものや文字の存在を強調するためには色の誘目性を利用することができます。モノの色を決めるときには、ものの視覚的印象に色が影響することと、どのようなものとの関係が深いかにより、色がものを連想させる効果があることを考慮する必要があります。
感覚的・知覚的作用
空間的あるいは時間的に近接している二つの色彩は、相互に影響し、単独の時とは異なる見え方をします。違いが強調される場合を対比、その逆を同化と言います。
1.対比
ある色が、その周りにある色に影響を受けて、色相がずれて見えたり、明るく又は暗くなって見えたり、鮮やかさが増す又は減って見えたりする現象です。
色相対比、明度対比、彩度対比、補色対比があります。
2.同化
同化色の同化とは、地色が柄の影響を受けて柄の色の色相・明度・彩度に偏って見える現象のことです。
面積効果面積効果は、明るさや色味に差が出るだけでなく、イメージも変化して見える現象です。
3.面積効果
面積が大きいほど明るいものはより明るく、有彩色の場合は、やや彩度が増して見みえます。また、暗い色はより暗く、有彩色の場合は、やや彩度が小さく見えます。
4.誘目性
色彩は「人の目をひく」という誘目性を持たせることができます。一般的に、Y、YR、Rは誘目性が高く、BG、PB、Pは誘目性が低いです。
誘目性は背景が黒の時に顕著に現れ、背景が白の場合は、誘目性が低いものが高くなります。
認知的・感情的作用
1.温度感覚
色が人に働きかけてさまざまな感情を誘発することがります。暖色系の色は暖かさを、寒色系の色は冷たいという感情を起こします。 一般には高彩度の色ほどこうした感情は現れやすく、低彩度になるにつれて感情は現れにくくなります。
2.色彩感情
色には興奮感や沈静感を与える働きがあります。一般に暖色系の彩度の高い色に興奮感を覚え、寒色系のやや彩度の低いに沈静感を感じます。寒色系の高彩度の色ははっきりした色なので、心を落ち着かせる効果は少ないです。
真っ赤に塗られた部屋にしばらくいると、感情が高ぶり脈拍が速くなります。これは興奮感を感じる顕著な例ですが、赤から黄かけての色みの強い色、それもかなり面積の大きいものほど興奮感を感じます。一方、 寒色系の色ではやや彩度を低くした色(明るい色と鈍い色調の中間色)が沈静作用は強いです。
また、色彩の感情効果は、下記のような感情質を表すことができます。
3.柔硬感
色が柔らかく見えたり硬く見えたりするのは、主として明度に関係があります。明るい色は柔らかく、暗い色は硬く見えます。
4.色の派手・地味感
色の派手・地味感は、彩度が最も影響し高彩度の色は派手に見えます。 次いで明度の影響も多くあり、高明度の色も時には派手に見える場合があります。反対に低彩度の色や低彩度・低明度の色は地味に見えます。
また、明清色はどんなに彩度が低くなっても、地味に見えることはありません。明清色とは、純色に白のみを加えた澄んだ色調の色のことで、このような色は低彩度になっても爽やかには見えますが、決して地味にみえることはありません。
5.連想的作用
色をみることによって、さまざまな連想を思い起こします。連想する事柄は概ね見た色と関連のある物や事柄です。
この連想には、花の果実のような具体例なものと、情熱、楽しい、悲しいなどの抽象的なものがあります。 このように色が見ることによって、さまざまな連想が引き起こされることを色の連想作用と言います。
色彩調和論について
色彩調和論とは、色彩に関してある法則を見出し、それが調和しているか否かを判別する方法の一つです。
シュブルールの色彩調和論
色彩調和の一般的な考えとして、基本形式を類似と対象に大別しています。
A.ごく近い色同士は調和する(類似)
B.対立する色同士は調和する(対比)
調和する条件として類似では、
a. 同一色相なもので違うトーン
b. 類似色相なもので類似トーン
c. ドミナントカラー
の3つです。
対比では、
d. 同一色相なもので対照トーン
e. 隣接もしくは類似色相なもので対照トーン
f. 捕食色相で対照トーン
の3つです。
シュブルール色彩調和論の考えについては、「シュブルール調和論」で建築的事例を上げて説明します。
トーンとは
トーンは、明度と彩度の複合概念のことです。
色相の同じ系列でも、明・暗、強・弱、濃・淡、浅・深の調子の違いがあります。この色の調子の違いをトーンといいます。
下の図は、PCCSのトーン図です。類似トーンとは隣り合う円同士のトーンを言う。対照トーンとは、明度の対照トーン、彩度の対照トーンがあり、明度対照は下の図で縦軸に離れた円同士のトーン(pとdkg,dkなど)、彩度対照は横軸に離れた円同士のトーン(vとp,ltg,g,dkgなど)を言います。
シュブルール調和論の建築的事例
a. 同一色相のもので違うトーン
建築物に使われる色彩の中で、この法則に従ったデザインは非常に多く見られます。建築物の外装材は主にイエロー系、レッド系、イエローレッド系の色彩が使われており、それぞれの色相のトーンが違う組み合わせでデザインされるものが多くみうけられています。
この写真は、丸の内仲通りビルディングの西側の壁面と床材です。平面と床材の色相はすべてイエローレッド系で統一されています。花崗岩でも仕上げ方法が違うもの、塗料材が塗られているものなど様々な材料が使用されているので統一感がなくなると思われがちですが、異なったトーンの色相が統一されているので景観の調和が保たれていると感じます。また、床材もイエローレッド系の色相が使用され、建物と平面の一体感を生んでいます。
b. 類似色相なもので類似トーン
aの法則と同じように、この法則に従った建築物はとても多いです。Aの事例のように、建築物の外装材にはイエロー系、レッド系、イエローレッド系が多く使用されています。これらの色相は一般的に暖色系の色彩と言われ、暖色系の色相の組み合わせは類似色相となります。類似色相となる組み合わせは他にも幾つかあり、寒色系の色相による組み合わせもその一つに分類されています。
この写真は、三井不動産レジデンシャルが管理するKOREDO室町(一つ目)とKOREDO室町2(二つ目)です。この通りは多くの店舗が連なり、人通りが盛んな場所です。この柱部をみると、微妙に異なる色彩が使われていて、色彩計画が細かされています。一つ目は2.5Y9/4、二つ目は5YR9.2/1の色彩が使われています。色相はイエロー系、イエローレッド系と類似色相であり、明度、彩度共に類似していることから、景観的に調和しているのではないかと考えています。
c. ドミナントカラー
ドミナントカラーとは、配色全体の印象を支配する色のことです。全体を同じ色相で統一した多色配色である。同じ色相でまとめ、トーンで変化をつけます。図はイエローレッド系の色相のドミナントカラー配列です。
この写真は、三菱地所レジデンスが管理する丸の内仲通りビルディング(左)と岸本ビルディング(右)です。左はイエローレッド系のドミナントカラー、右はレッド系のドミナントカラーを用い、調和を図っています。余談ではありますが、床材の色相の違いによって空間を分けてしまっているように感じます。
対比(d. 同一色相なもので対照トーン e. 隣接もしくは類似色相なもので対照トーン f. 捕食色相で対照トーン)
対比による対照トーンの複数色彩の配色は、色彩に関する調和を作ることができますが、色彩の明度や彩度が際立ってしまう場合が多く、景観的な調和を作ることは難しいです。なので、建築的に対比の法則で配色した事例は少ないです。
ですが、例外的に明度や彩度を際立たせた建築的事例もあります。この場合、設計者の思いや地域的なコンセプトが強く反映し、派手な色彩配色に意味が込められたもの、また、絵画やアートのように芸術性を持ち、それ自体が地域のランドマークやシンボルとなるような景観に悪影響を与えないものに限られます。
出典:WaDaフォトギャラリー
写真は福岡県にある複合商業施設、キャナルシティ博多です。色彩設計コンセプトとして地層の構成をベースにし、“シマウマの家族”(ここは違っているが全体として一つにまとまっている)をイメージし計画されています。
設計者は、日本の伝統的版画の色を参考にし、一般的にアクセントカラーとして使われる非彩度が高い色彩が多く取り入れられています。見る限り彩度が高いレッド系、ブルーグレイ系が使われ、床材には彩度が低いレッド系、イエローレッド系が使われています。
これは色彩調和論の対比の法則のd、eに当てはまり、調和しています。その一方、彩度が高い色彩を使うことは、人の感情、興奮を高める心理効果を持っています。他にはない景観をつくることで非日常感を作り出しているように感じます。
対比が使われる建築的事例は、商業施設などで用いられることが多いようです。一方、生活の拠点である住宅や企業の外壁には落ち着いた色彩が好まれます。商業施設のような人が集まり楽しむような場所には、非日常感を演出しやすい対比の色彩が使われるのではないかと考えます。