都市部の外構色彩の現状
東京都景観計画での壁面色彩の基準以外にも、23区中19区の特別区でも壁面色彩の基準が定められています。しかし、区によっては色彩決定の届出対象規模が決められ、全ての建築物で壁面色彩の基準による誘導はされていません。
基準が誘導されない建物では、景観アドバイザーによる指導によって色彩が誘導されています。
大規模再開発事業の建物では、調和しているとは言い切れなむせんが、景観的に問題がないように色彩コントロールがされていると考えられます。床材は、壁面色彩に付随して色彩が誘導されているように感じます。
一方、東京都内にある建物の色彩を調査すると、個性的な色彩を用いた建物がいくつか存在する結果となっています。これは、大規模再開発事業では規模が大きいだけに様々な景観関係者によって色彩が決定されているためと考えます。
床材についても、例えば丸の内仲通りの大規模開発では、道の通りにアルゼンチン石を使いオリジナルの床材を使用するなど、色彩以外でもデザインがされています。こういった現状の中で、都市部の建物では、壁面の色彩基準や景観関係者による誘導ができなくなってきているのではというように感じます。
また、現在の色彩基準の限界を垣間見ることができる事例を挙げさせていただきます。
図9-1は建物の立面図です。緑の建物の色彩は5G6/4ですが、一般的な地域の壁面の色彩基準の基準色(壁面4/5以上)の範囲内です。色彩基準は満たしていますが、周りの建物の色彩と比較してみても景観的に違和感を感じさせます。
このような建物が都市部でもいくつか存在し、現在の壁面色彩基準の限界がここにあるのではないかと感じています。
図9-1.建物の立面図
床材については、大規模再開発事業の除いてみると高彩度化が進み派手な景観をつくりだす現状となりつつあります。床材が派手になっていく原因として以下の二つが考えられます。
- イメージの中での高彩度化
- 既製品の問題
「1.イメージの中での高彩度化」では、色の心理的効果で色がイメージの中で高彩度化していくもので、それにともなって床材も高彩度化していくと考えます。それに加え、床材の色彩基準も決められていない中で、派手な床材を規制する手段もないため、高彩度化した床材を使うことに拍車をかけているのではないかと考えます。
「2. 既製品の問題」では、コストの関係上既製品の数が少なく派手なものが多いことから派手の床材が選択される傾向にあります。床材に関してはただ色彩を規制するだけではなく、外装材から見直す必要があります。
外構色彩に関する提案
都市部の外構色彩の現状を体現し、ただ壁面の色彩を定め誘導するだけでは色彩のコントロールはできないということが結果として分かりました。色彩コントロールはいくつかの要素で決められ、それを基に色彩を決めていく必要があります。
色彩コントロールするための要素を以下に示します。
- 色彩基準による誘導
- 建物や色の組み合わせ
- 配色(街・建物のイメージ)
- 建物の使われ方(用途)
- 立地条件
- 明るさ・暖かみ
- 色彩基準による誘導
壁面については色彩の使用範囲の制限は既に施行されていますが、今までの調査から現在の基準では色彩コントロールに限界があるとみて、基準を見直す必要があるのではないかと考えます。
具体的には、色彩の届出対象規模の範囲の拡張、歩行時の景観に影響しやすい彩度の制限の見直しなどが考えらます。
床材では、色彩の制限を設ける必要があると考えます。床材に派手な色彩が使われる実態があることから、主に高彩度の色彩を制限する手段として床材の制限を設けます。壁面の色彩制限と異なることは、床材の色彩制限の基準を設けるときに壁面との釣り合いを考えることである。壁面との釣り合いについては一般的に以下の調和について考えなければいけません。
[対比による調和]
大きな外壁により全体的に明るめの色調の場合→暗めの床材を使用(図9-2)
[同化による調和]
商業施設や他のビルが混在する場合→中明度の床材を使用(図9-3)
図9-2.対比による調和 図9-3.同化による調和
- 建物や色との組み合わせ
床材を決める際に考えるべきことは壁面との釣り合いです。行ったアンケートでは、742の理由の中で306件がこの要素を選び、最も留意すべき項目と言えます。
色彩を軸とし、調和する色の組み合わせを選択します。例えば、壁面のアクセントカラーとして淡い茶系が使われていたとしたら、床材にもアクセントとして淡い茶系を使うことに配慮する必要性が出てきます。
図9-4.アクセントカラーの統一(武蔵小杉)
- 配色(街・建物のイメージ)
都市部にはそれぞれ街や建物のイメージというものが作られ、それにあった配色というものを心がけなければいけません。歩行者にとって建物の壁面や床材の色は、建物だけでなく街並みのイメージに大きく影響するからです。
- 建物の使われ方(用途)
建物の使われ方、用途によって色彩の選択に配慮します。
例として、以下の項目で色彩の使用を変更します。
[商業エリア]
非現実的を演出する→例:中明度以上の色彩を使い、中彩度以上のアクセントカラーを入れる
[オフィスエリア]
オフィスに適した色使いで色彩を使い動線を分ける→例:オフィスエントランスに低明度の壁面及び床材を使用する
[住戸エリア]
生活の拠点として相応しいを使用する→例:落ち着きや明るさのある中明度以上でR系、YR系、Y系の色合いを使用
- 立地条件
建物がどこの場所に建ち、そこに何があるかといった環境の違いで色彩の使われ方は変化します。
例えば、高層ビルに囲まれた床材の場合、光が入りにくく暗い印象を与えがちなので高明度の色彩を使用したり、道や平面が広い場合は圧迫感を生まないよう高彩度の色彩は使わないようにしたりするなどの提案が必要です。他にも建物以外に植栽やベンチ、照明などのストリートファニチャーによっても色彩の使用を変えていく必要があります。
- 明るさ・暖かみ
明るさや暖かみは、客観的な意見をみても色彩を決定するための大きな要素であるため、非常に重要と言えます。明るさのある色は用途にかかわらず好まれる傾向にあります。低明度の色を使うメリットとしてモダンなイメージやシックなイメージを生むことができるが、暗い場所は危険なイメージとして捉えられやすく避けるべきでしょう。
まとめ
都市部の外構色彩は壁面の色彩を誘導するだけで景観を保持できているのかについては、十分に保持できてはいないということが分かりました。
色彩の決定に至っては色彩基準では決められない様々な要素が存在し、色彩基準だけでは色彩を誘導するのに限界を感じます。
今後の外構色彩では、色彩基準で色彩を誘導するのはもちろん、様々な視点から色彩の決定を試みる必要があるのではないかと思います。